濡葉色
本当に梅雨が明けたのではないかと思えるほどの、雲一つない空が頭の上に広がっている。まだ、6月中旬なんだしこれから大雨が降るのかもしれないが、今のところは雨の気配もなく暑すぎる日々が過ぎていく。このままだと、空梅雨で野菜の生育にも影響が出るのではないかと心配せざるを得ない。もっとも、これは物価が上がるのが嫌なだけなんだけど・・・
日本の色にはその色の名前だけでなく、その時々のものの様態を写し取ったような色の呼び方をする。今の季節ならば、”濡葉色”がそうだ。
濡葉色を声を出して言うと”ぬれはいろ”となる。よく似た言葉に”ぬればいろ”というのがある。時々、”濡葉色”を”ぬればいろ”と読んでしまうかもいるけれども間違いである。”ぬればいろ”はよく聞くし、口にもすることがあるので、ついつい”ぬればいろ”と早とちりをして読んでしまうかもしれない。”ぬれはいろ”と”ぬればいろ”はよく似ている言葉だけれども、色としては全く違うので注意が必要だ。
”ぬれはいろ”は、この梅雨の季節に相応しい色である。雨に濡れると木々の葉っぱ色に深みがまし瑞々しく輝きます。深く力強い緑色となった様子を、”濡葉色”と表現したのです。
一方、よく聞く”ぬればいろ”ですが、漢字では”濡れ羽色”と羽をあてます。御存知のように、万葉の時代から女性の黒髪を形容する言葉として用いられてきました。艶やかで光の当たり具合によっては、緑にも紫にも見える美しさを表現した言葉です。平安時代の女性にとって、濡れ羽色に光るまっすぐな黒髪は、美人の条件でした。日本人にとっては当たり前の黒髪を、いかに美しく見せるのかという事がとても大事に思えたからこその表現だと思います。
”は”と”ば”の一時違いですが、その色はまったく異なるものなのです。わたしたちは、ついつい言いなれた言葉が口について出てきます。それが、うろ覚えであったり、勘違いをしていていたりして、本当に言いたいことと違うことを意図せず話している時もあるのではないでしょうか。そのようなことを起こさないように、きちんとした言葉を覚えておきたいものです。
とくに、日本には古来”濁音”を文字としては表記していなかったはずです。そのため、濁音系には結構間違えてしまいやすいものも少なくありません。また、年代を経て言葉は変わっていきますので、いつの間にか誤った日本語が広く広まり、その結果そちらの方が正しい用法へと変化することもあります。たとえば、”いっしょうけんめい”などがその最たるものだと思います。この言葉については、また何かの時に触れていきたいと思います。
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